最高裁判所第二小法廷 昭和37年(あ)2209号 決定 1962年12月28日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人原則雄の上告趣意第一点は、違憲をいうけれども実質は単なる法令違反の主張に帰し、同第二点は、事実誤認の主張であり、同第三点は、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお、およそ人の生命・身体に危害を生ずるおそれあるいわゆる危険業務に従事する者は、その業務の性質に照らし危害を防止するため法律上・慣習上若しくは条理上必要なる一切の注意をなすべき義務を負担するものであって、法令上明文のない場合といえどもこの義務を免かれるべきものでないと解すべきであるから、本件において、踏切警手の勤務に従事していた被告人が、原判示の如き事情、すなわち、「本件踏切に設置された警報機が、上り線の場合は電車が同踏切手前約四四〇メートルまで接近すると鳴動を開始し、同踏切を過ぎて約七〇メートルの地点に至ると鳴動を終了し、下り線の場所は電車が同踏切手前約二七〇メートルまで接近すると鳴動を開始し、同踏切を過ぎると鳴動を終了するよう調整されていたため、上り電車が同踏切を通過しても、同踏切から約七〇メートルの地点を通過するまでは、警報機が上り線のみで鳴動しているのか或は同時に下り電車が接近して下り線の関係においても鳴動しているのか判別できない」事情の下において、上り電車が同踏切が通過し約一五メートル過ぎた後、既に下り電車が同踏切手前約一〇〇メートル位まで接近して警報機が鳴動中であったのに、それは上り電車のためにのみ鳴動しているものと軽信して踏切遮断機を開いた結果、原判示の如き事故を発生せしめた行為は、たとえ踏切警手の勤務に関する諸規程に警報機の鳴動中に踏切遮断機を開いてはならない旨の規定がなかったとしても、なお業務上の注意義務に違背するものといわなければならない。
弁護人片野真猛の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之助)